2008年1月2日水曜日

石橋和訓「美人読詩」


















 壁にそって置かれた椅子の壁側に柔らかいクッションがあり,黒いドレスの女性がゆったりともたれかかり,読書をしている。上半身しか判然としない。右手で本を背からささえ,左手でページを繰っている。長時間の読書に適した,いかにも楽そうな姿勢であり,長いことこの姿勢のままであるように感じ取ることができる。

 詩集のはずであるが,本は,ぎっしりと活字で埋まっているようにみえる。

 モデルは,当時のイギリスの女優であるといわれている。たいへん美しい上,ヴィクトリア朝の雰囲気ばかりでなく,知性と優雅さがにじんでいる。それに肖像画のポーズとなるほど,女性が本を読むということが一般化していたことがわかる。

 石橋和訓(いしばし かずのり/わくん,1876-1928)は,島根の農家の長男として生まれ,松江や東京で洋画を学んで,1903年にロンドンへ留学した。外国人が入るのは難しかった王立美術院に入った初の日本人となる。ここで肖像画の技術を学び,肖像画家として知られた。

 英国と日本の著名人の多数の肖像画があるが,多くは英国にあり,所在の確認が困難とのことである。

 この作品は,日本の第3回文部省美術展覧会(文展)に英国から出展され,三等賞だった。

●石橋和訓 「美人読詩」1906年 油彩 カンヴァス 99.5×88.3cm 島根県指定文化財